
スタートアップの繰越欠損金の使い方|10年の期限と要件、資本金1億円超で変わる控除の上限、株主の変化と繰戻還付
数多くのスタートアップをM&A・Exitへ導いてきたプラスト税理士法人です。
「創業から赤字が続いているけど、この赤字は黒字になったときに使えるの?いつまで?」
「次のラウンドで資本金が1億円を超えそう。税金の面で不利になることはある?」
税理士法人として忖度なしでお伝えすると、先行投資で積み上がった赤字(繰越欠損金)は、将来の税金を減らせる大切な財産です。ただし、使える上限や使えるかどうかは、事業年度末の資本金、設立からの年数、株主の構成によって変わり、増資や事業の切り替えを決めた後では取り戻せないこともあります。
本記事では、赤字が続くスタートアップの経営者・CFOに向けて、黒字化の前に押さえておきたい繰越欠損金の使い方を、根拠条文と計算例つきで解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事の結論
• 繰越欠損金は、青色申告をした年の税務上の赤字を最長10年繰り越し、黒字の年の所得から差し引ける制度です。連続した申告と帳簿の保存が要件です(法人税法57条)。
• 控除の上限は、期末の資本金が1億円以下なら所得の全額、1億円超なら50%です。ただし設立7年以内は、上場日を含む事業年度の前の事業年度までは全額を控除できます。
• 1つの株主に50%超を持たれた後、5年以内に旧事業をすべてやめて多額の資金を受け入れるなどすると、それまでの欠損金は使えなくなります(同法57条の2)。
• 前期が黒字で当期が赤字なら、中小企業者等は「繰戻還付」で前期に納めた法人税を取り戻せる場合があります(同法80条)。
まず申告書の別表七(一)(=欠損金の残高と期限の明細)で残高と期限を確認し、増資の前に「期末の資本金」と「設立からの年数」を確かめましょう。
1. 繰越欠損金とは?赤字を10年間繰り越して法人税を減らす仕組み
繰越欠損金とは、青色申告をした事業年度の税務上の赤字(欠損金)を最長10年間繰り越し、黒字になった事業年度の所得から差し引ける制度です(法人税法57条1項)。欠損金は、益金(=税務上の収益)から損金(=税務上の経費)を差し引いてマイナスになった額で、決算書の赤字とは一致しないことがあります。
| 欠損金が生じた事業年度 | 繰り越せる期間 |
|---|---|
| 平成30年4月1日以後に開始した事業年度 | 10年 |
| 平成30年4月1日前に開始した事業年度 | 9年 |
繰越欠損金は、古い事業年度に生じたものから順に差し引きます。黒字になれば自動的に差し引かれるため、「今年は使わずに来年に回す」といった選び方はできません(法人税法57条1項、国税庁タックスアンサーNo.5762)。期限を過ぎた欠損金は切り捨てられます。残高と期限は、法人税申告書の別表七(一)(=欠損金の残高と期限を事業年度ごとに記載する明細書)で確認できます。
期限切れが心配なら、創立費・開業費のように償却の時期を選べる費用(任意償却)を、黒字化の後に償却する方法もあります。
参考記事:開業費・創立費とは?範囲・仕訳・任意償却を税理士が解説|設立前の領収書がない場合の対処法
2. 繰越欠損金を使うための3つの要件
要件① 赤字が出た事業年度に、青色申告書で確定申告をしている
青色申告でない事業年度の欠損金は、災害による損失の部分を除き繰り越せません(法人税法58条1項)。設立1期目は、設立後3か月を経過した日と1期目の末日のいずれか早い日の前日までに承認申請が必要です(同法122条2項1号)。
要件② その後の事業年度も、連続して確定申告書を提出している
赤字で納税額がない年も、申告書の提出は欠かせません(法人税法57条10項)。
要件③ 欠損金が生じた事業年度の帳簿書類を10年間保存している
一般の保存期間(7年)より長いため、会計ソフトの解約やデータ移行の際に消さないよう注意が必要です(法人税法57条10項、同法施行規則26条の3)。
3. 繰越欠損金の控除の上限|中小法人等は所得の全額、資本金1億円超は50%
控除の上限は、会社の区分で変わります(法人税法57条1項ただし書・11項)。
| 会社の区分(各事業年度終了の時で判定) | 控除できる上限 |
|---|---|
| 中小法人等:資本金1億円以下の普通法人(=株式会社など一般の会社。資本金5億円以上の法人などの100%子会社等を除く) | 控除前の所得の全額 |
| 中小法人等以外(資本金1億円超の法人など) | 控除前の所得の50% |
| 中小法人等以外でも、設立から7年以内の事業年度(上場前)など | 控除前の所得の全額(4章) |
ポイントは、中小法人等かどうかを「各事業年度終了の時」の資本金で判定することです(法人税法57条11項1号)。期中に増資をして期末の資本金が1億円を超えていれば、その事業年度は増資前の期間も含めて50%の上限になります(4章の特例に当たる場合を除きます)。
黒字化しそうな期は、月次の試算表で所得を見込んでおくと、増資の払込日や、繰越欠損金で減る税額を決算の前に判断できます。月次決算の体制づくりは、経理アウトソーシング(経理BPO)でもご支援しています。
4. 設立7年以内なら資本金1億円超でも全額控除できる(新設法人の特例)
大型の資金調達で資本金が1億円を超えたスタートアップでも、設立の日から7年を経過する日までの期間内の日を含む事業年度は、所得の全額まで繰越欠損金を控除できます(法人税法57条11項3号)。対象は普通法人で、資本金5億円以上の法人などの100%子会社等は対象外です。
この特例は、株式が上場した日を含む事業年度から使えなくなります(海外の取引所への上場、店頭登録を含む。法人税法施行令113条の2第7項)。シリーズB・Cで資本金が1億円を超えても、設立7年以内・上場前の黒字化なら全額使えますが、上場した事業年度からは50%の上限がかかるため、上場期の税金の見込みに反映しておきましょう。なお、7章の繰戻還付と、8章の事業税の外形標準課税には、設立7年以内の特例はありません。
5. 計算例|資本金1億円以下のままの場合と、1億円を超えた場合の比較
次の前提で、黒字化した事業年度の法人税を比べます(金額は説明のための仮の数字です)。
●1〜5期の欠損金の合計:1億円
●黒字化した事業年度の所得(欠損金を差し引く前):6,000万円
●A:期末の資本金が1億円以下(中小法人等)
●B:期末の資本金が1億円超、黒字化したのは設立7年を経過した後の事業年度(上場前)
●C:期末の資本金が1億円超、黒字化したのは設立7年以内の事業年度(上場前)
| 項目 | A 資本金1億円以下 | B 1億円超・設立7年経過後 | C 1億円超・設立7年以内 |
|---|---|---|---|
| ① 控除前の所得 | 6,000万円 | 6,000万円 | 6,000万円 |
| ② 控除の上限 | 6,000万円(全額) | 3,000万円(①×50%) | 6,000万円(全額) |
| ③ 控除する欠損金(1億円と②の少ない方) | 6,000万円 | 3,000万円 | 6,000万円 |
| ④ 課税所得(①−③) | 0円 | 3,000万円 | 0円 |
| ⑤ 法人税 | 0円 | 696万円(④×23.2%) | 0円 |
| ⑥ 翌期へ繰り越す欠損金(1億円−③) | 4,000万円 | 7,000万円 | 4,000万円 |
Bの法人税は、3,000万円×23.2%(法人税法66条1項)=696万円です。このほかに地方法人税・防衛特別法人税・住民税・事業税もかかります。防衛特別法人税は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税額から年500万円を差し引いた額の4%です(防衛財源確保法11条・13条・14条)。
差し引けなかった欠損金は繰り越されますが、税金を払う時期が早まるため資金繰りに影響し、黒字が小さいまま推移すると10年の期限内に使い切れないおそれもあります。Cのように設立7年以内なら、資本金1億円超でもAと同じです。納税で手元資金がいつ減るかは、毎月の資金の減り方とあわせて確認しましょう。
参考記事:【バーンレート・ランウェイ】計算方法と資金調達を始める時期の決め方|試算表の赤字と実際のキャッシュの違いまで税理士が解説
6. 株主が大きく変わったときの制限|VC出資・M&Aで欠損金が使えなくなるケース
株主が大きく変わった会社は、次の3つがそろうと、該当した事業年度以後、それより前の欠損金を使えなくなります(法人税法57条の2)。欠損金を持つ会社を買って税金を減らす行為を防ぐための規定です。
●① 1つの株主(その関係者を含む)に、発行済株式の50%超を直接・間接に保有される関係(特定支配関係)になった
●② その時点で、繰越欠損金(または一定の含み損のある資産)がある
●③ その日(支配日)から5年以内に、一定の事由に当たった
| スタートアップで特に注意したい事由 | 内容 |
|---|---|
| 旧事業の廃止+多額の資金受入れ(法人税法57条の2第1項2号) | 支配日の直前の事業(旧事業)をすべて廃止し(または廃止する見込みで)、旧事業の規模(売上金額など)のおおむね5倍を超える借入れや出資の受入れを行う(おおむね全部を債務の返済に充てることが明らかな資金は除く。同法施行令113条の3第14項) |
このほか、休眠会社が事業を始める場合(1号)や、支配されたことをきっかけに、旧役員がすべて退任し、旧従業員のおおむね20%以上が辞め、旧従業員が従事しない事業の規模が旧事業のおおむね5倍を超える場合(5号)などがあります。
VCから出資を受けると該当する?
VC(ベンチャーキャピタル)など複数の投資家がそれぞれ50%以下を持つ通常の資金調達であれば、多くの場合、①には当たりません。ただし、各社が50%以下でも、ファンドのGP(=運営者)やLP(=出資者)が共通している場合などは、組合関連者として保有分が合算され、50%超と判定されることがあります(法人税法施行令113条の3第1項・4項)。同じGPが運営する、または同じLPが出資している複数のファンドから出資を受けている場合や、M&A(企業の買収)で50%超を買い取られる場合は、個別に確認してください。
旧事業の売上が小さいスタートアップでは、ピボット(=事業の全面的な切り替え)と大型の調達が5年以内に重なると、「おおむね5倍」を超えやすい点に注意が必要です。なお、適格合併などの一定の組織再編や、法的整理や一定の私的整理の計画に基づく株式の発行などで50%超になった場合は、対象外です(同令113条の3第5項)。
7. 前期が黒字なら「繰戻還付」で法人税を取り戻せる
前期に黒字で法人税を納め、当期に赤字になった場合は、当期の欠損金を前期(=還付所得事業年度。繰り戻す先の黒字の事業年度)に繰り戻して、前期に納めた法人税の還付を受けられます。これが欠損金の繰戻しによる還付(繰戻還付)です(法人税法80条1項)。
主な要件(法人税法80条1項・3項)
• 前期から当期の前の期まで、連続して青色申告書を提出している
• 赤字の当期の青色申告書を、提出期限までに提出している
• 当期の確定申告書の提出と同時に、還付請求書を提出する
使える会社は、原則として中小企業者等(期末の資本金が1億円以下の会社など)に限られます。資本金1億円超の法人などは、令和10年3月31日までに終了する事業年度の欠損金について、解散や災害など一定の場合を除き、繰戻還付が停止されています(租税特別措置法66条の12第1項、法人税法80条4項・5項)。中小企業者等かどうかは、赤字になった事業年度の終了の時で判定します。
還付額の計算例(金額は仮の数字です)
前期の所得2,000万円、前期の法人税額398.4万円(800万円×15%+1,200万円×23.2%。法人税法66条1項・2項、租税特別措置法42条の3の2)、当期の欠損金1,000万円の場合
還付される法人税:398.4万円×(1,000万円÷2,000万円)=199.2万円
併せて還付される地方法人税:199.2万円×10.3%=20万5,176円(地方法人税法23条1項)
合計:219万7,176円
繰戻還付に使った欠損金は、翌期以降の法人税の繰越控除には使えません(法人税法57条1項かっこ書)。「今すぐ現金を戻すか」「翌期以降の黒字と相殺するか」は、資金繰りと黒字化の見込みで判断します。
8. 赤字でも法人税・住民税はかかる?均等割と事業税の注意点
繰越欠損金で所得が0円になれば、法人税、住民税の法人税割、事業税の所得割はかかりません。事業税の所得割でも繰越欠損金を差し引き(地方税法72条の23第1項)、繰戻還付に使った欠損金も事業税では繰り越せます(地方税法施行令21条1項)。繰戻還付を受けた法人税額は、翌期以降の住民税の法人税割の計算で差し引きます(地方税法53条23項・321条の8第23項)。
一方、住民税の均等割(=赤字でもかかる定額の税)は、資本金等の額(=株主から出資を受けた金額として税法で定める額。資本金と資本準備金の合計額を下回る場合はその合計額)で決まり、市町村民税は従業者数でも変わります(地方税法52条・312条)。また、資本金1億円超の法人などは、事業税の外形標準課税(=所得ではなく、給与などの付加価値や資本金等の額にかかる事業税)の対象となり、赤字でも課税されます(地方税法72条の2)。均等割・外形標準課税の判定基準と、資本準備金で資本金を抑えるかの考え方は、次の記事で解説しています。
参考記事:【第三者割当増資】スタートアップが知らないと損する手続きと税務の落とし穴5つ|資本金「1,000万円・1億円の壁」
参考記事:【創業1・2期】スタートアップの税務の失敗7選と対策|役員報酬・消費税還付・補助金・SOの注意点
9. まとめ|繰越欠損金は「黒字化の前」に使い方を設計する
あなたの会社の繰越欠損金は、いくら残り、いつ期限が切れ、黒字化した年にいくら使えるか、把握できていますか?
次のどれかに当てはまるなら、黒字化や次の資金調達の前に、一度確認しておくことをおすすめします。
• 次のラウンドで、期末の資本金が1億円を超えそう
• 設立から7年が近づいている、または上場の準備を始めている
• 1つの投資家・事業会社に50%超の株式を持たれる予定がある、またはピボットを検討している
• 前期は黒字だったが、当期は赤字になりそう
増資のたびの資本金と持株比率の変化は、資本政策の全体像とあわせて決めるのが基本です。
参考記事:【資本政策】資本政策表の作り方と持株比率・希薄化の計算例(シード〜シリーズB)|創業時にやってはいけない3つの株の持ち方
繰越欠損金・資本政策の税務でお悩みなら、プラスト税理士法人へご相談ください
こんな経営者様・CFOの方はご相談ください。
• 黒字化の時期と資本金・上場の予定を合わせて、税金の見込みを試算したい
• 欠損金の残高と期限を、月次の数字で管理したい
プラスト税理士法人は、資本政策の税務から毎月の経理・決算・申告までを一気通貫でご支援し、増資や上場の予定に合わせた税金の試算をご提案します。
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よくある質問
●繰越欠損金とは何ですか?
青色申告をした事業年度の税務上の赤字(欠損金)を最長10年間繰り越し、黒字になった事業年度の所得から差し引ける制度です(法人税法57条1項)。連続した確定申告書の提出と帳簿書類の保存も要件です。
●繰越欠損金は何年使えますか?期限が切れるとどうなりますか?
平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は10年、それより前の事業年度に生じた欠損金は9年です(国税庁タックスアンサーNo.5762)。期限内に使い切れなかった欠損金は切り捨てられます。
●繰越欠損金の控除に上限はありますか?資本金1億円を超えるとどうなりますか?
資本金1億円以下の中小法人等は所得の全額まで控除できますが、事業年度末の資本金が1億円を超えると、控除できる上限は所得の50%になります(法人税法57条1項ただし書・11項)。ただし、設立から7年以内の事業年度は、上場日を含む事業年度の前の事業年度までは全額を控除できます(同条11項3号)。
●VCから出資を受けると、繰越欠損金が使えなくなることはありますか?
複数の投資家がそれぞれ50%以下を持つだけなら通常は制限を受けませんが、ファンドの組合員が共通する場合は合算されることがあります(法人税法施行令113条の3第1項・4項)。50%超を持たれた後5年以内に、旧事業をすべてやめて旧事業の規模のおおむね5倍を超える資金を受け入れるなどすると、それまでの欠損金は使えなくなります(法人税法57条の2)。
●赤字でも法人税はかかりますか?
所得が0円であれば法人税はかかりません。ただし、住民税の均等割は赤字でもかかり(地方税法52条・312条)、資本金1億円超の法人などは事業税の外形標準課税も赤字でかかります(同法72条の2)。
●前期に払った法人税を取り戻す方法はありますか?
前期が黒字で当期が赤字なら、当期の欠損金を前期に繰り戻して法人税の還付を受けられる場合があります。原則として、赤字の事業年度末の資本金が1億円以下の中小企業者等に限られ、当期の確定申告書の提出と同時に還付請求書を出す必要があります(法人税法80条1項・3項、租税特別措置法66条の12第1項)。
【主な根拠法令等】法人税法57条1項・10項・11項/同法57条の2第1項/同法58条1項/同法66条1項・2項/同法80条1項・3項・4項・5項/同法122条2項1号/法人税法施行令113条の2第7項/同令113条の3第1項・4項・5項・14項/法人税法施行規則26条の3/租税特別措置法42条の3の2・66条の12第1項/地方法人税法23条1項/我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法(防衛財源確保法)11条・13条・14条/地方税法52条・53条23項・72条の2・72条の23第1項・312条・321条の8第23項/地方税法施行令21条1項(e-Gov法令検索で確認)/国税庁タックスアンサーNo.5762「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」・No.5763「欠損金の繰戻しによる還付」(令和8年4月1日現在)/財務省「令和7年度税制改正」(防衛力強化に係る財源確保のための税制措置)
※本記事は2026年10月20日時点の法令・国税庁等の公表資料に基づく一般的な解説です。個別の事案への適用・最終判断は、担当税理士にご確認ください。
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