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自社株は個人と資産管理会社のどちらで持つ?IPO・M&A前に移すメリットと、売る価格・税金(所得税法59条のみなし譲渡)

公開日 更新日 事業承継・相続
高層ビルの窓から街を見下ろす家族(自社株を家族の資産管理会社に移す事業承継のイメージ)

自社株は個人と資産管理会社のどちらで持つ?出口別の比較、移す時期、売る価格(時価)と所得税法59条のみなし譲渡を、条文と計算例で整理

オーナー企業の事業承継・株価算定を支援しているプラスト税理士法人です。

「上場(IPO)やM&Aの前に、自社株は個人と会社のどちらで持っておくべき?」
「自分が持っている自社株を、家族で持つ資産管理会社に移したい。いくらで売ればいい?」
「相続税評価額で売れば、税金も少なくて済むのでは?」

個人で持つか資産管理会社(オーナーや家族が株主の会社)で持つかは、将来その株を売って個人で使うか、会社に残して再投資・承継に回すかで決まります。移す場合は、株価が上がる前が基本です。そして、資産管理会社に移すときによく見かける失敗が「相続税評価額のまま安く売る」ことです。買い手が法人なので、所得税と法人税の「時価」が物差しになり、時価の2分の1未満なら所得税法59条の「みなし譲渡」で時価課税されます。安く売るほど、売った人・資産管理会社・その株主の三者に課税が及ぶおそれがあります。

本記事では、自社株の持ち方を検討しているオーナー経営者と、その相談を受ける経理・財務の担当者に向けて、個人と資産管理会社のどちらで持つかの比べ方、移す時期、価格の決め方、三者の課税、資金の手当てを、条文と計算例で解説します。

この記事の結論(2026年10月30日時点)
① 自社株を個人と資産管理会社のどちらで持つかは、出口で決まります。売ったお金を個人で使うなら個人で、売った後も再投資・承継に回すなら資産管理会社で持つ方法が向いています(→1章)。
② 移すなら、株価が上がる前(資金調達・上場承認・M&Aの合意の前)が基本です(→1章)。
③ 資産管理会社に売る価格は、所得税基本通達59-6の時価が基準です。時価の2分の1未満で売ると所得税法59条のみなし譲渡で時価課税され、2分の1以上でも同族会社への売却は時価で計算し直される場合があります(所得税法157条・所得税基本通達59-3)。安く売ると、資産管理会社の受贈益(法人税法22条2項)や家族へのみなし贈与(相続税法9条)にも課税が及ぶおそれがあります(→4章)。時価3億円の株を1億2,000万円で売っても、売った人の税金は時価で売った場合と同じ約5,891万円です(→計算例)。

1. 自社株は個人と資産管理会社のどちらで持つ?IPO・M&A・株価上昇の前に比べること

自社株を個人と資産管理会社のどちらで持つかは、売ったお金を個人で使うか、会社に残して再投資・承継に回すかで決まります。移す場合は、株価が上がる前(資金調達・上場承認・M&Aの合意の前)が基本です。

「上場(IPO)やM&Aの前に、資産管理会社に株を移しておいた方がよいと聞いた」「会社が伸びて株価が上がる前に、持ち方を決めておきたい」。こうしたご相談では、まず将来その株をどうするかから考えます。個人で持つか資産管理会社で持つかで、売るとき・配当を受け取るとき・相続のときの税金が変わるためです。

資産管理会社とは、オーナーやその家族が株主となり、自社株や不動産などの財産を持つための会社です。事業会社の株を持つ会社は「持株会社(ホールディングス)」とも呼ばれます。

比べる点個人で持つ資産管理会社で持つ
移すときの税金かからないオーナーが時価で売り、譲渡益に20.315%(※1)
将来売るとき(M&A・上場後の売却)譲渡益に20.315%の分離課税(※2)譲渡益に法人税等(おおむね30〜35%程度。※3)。代金は会社に残る
売ったお金を個人で使うときそのまま使える配当・役員報酬などで受け取り、個人にもう一度課税
事業会社からの配当総合課税(最高55.945%。※4)持株割合3分の1超なら大部分が益金不算入(=法人税の対象外。※5)
移した後の値上がり分オーナーの相続財産が増える資産管理会社の株の価値が増える(その株を後継者が持てば、オーナーの相続財産は増えにくい)
相続税の評価事業会社の株を評価資産管理会社の株を評価(※6)
向いている人売ったお金を個人で使う人売った後も再投資・承継に回す人

※1 株式交換・株式移転で移す場合は、一定の要件を満たせば譲渡益への課税が繰り延べられます(所得税法57条の4。2章)。
※2 非上場株式は租税特別措置法37条の10、上場後の株式は同法37条の11。所得が極めて大きい人には追加の負担があります(同法41条の19。5章)。
※3 法人実効税率(法人税・住民税・事業税をあわせた実質的な税率)は、会社の規模・所得・地域で変わります。財務省が示す標準的な法人実効税率29.74%(防衛特別法人税がかかる場合は30.64%)は資本金1億円超の会社の税率で、資本金1億円以下の会社では、所得800万円を超える部分はおおむね34%前後になります。
※4 給与などほかの所得と合算する方式で、所得が多いと所得税・住民税で最高55.945%です。配当控除で一部軽減されます(所得税法89条・92条)。
※5 益金(法人税の課税対象になる収益)に算入しない扱いです(法人税法23条。6章)。上場後などに持株割合が3分の1以下に下がると、算入しない割合も下がります。
※6 資産管理会社が株式等保有特定会社に当たると、原則として純資産価額で評価します(財産評価基本通達189(2)・189-3)。純資産価額では、相続税評価額が帳簿価額(現金で買い取った株は買い取った価格)を上回る部分(評価差額)の38%を差し引きます(同通達185・186-2。令和8年4月1日以後の相続・贈与)。株式交換・株式移転などで著しく低い価額で受け入れた株は、この差し引きが制限されます。

資産管理会社で持つメリット
• 事業会社からの配当や売却代金を、会社に残したまま次の投資に回せます(持株割合3分の1超なら、受け取る配当の大部分に法人税がかかりません)。
• 資産管理会社の株を後継者が持てば、移した後の値上がり分が、オーナーの相続財産として膨らみにくくなります。
• 親族に分散した株を1つの会社に集め、議決権を安定させられます。

個人で持つ方がよい場合
• 売ったお金を個人で使う予定(M&Aで会社を売って引退する、上場後に株を売って生活資金に充てるなど)なら、個人で持つ方が税負担は軽くなりやすいです。個人の譲渡益は20.315%の分離課税で済みますが、資産管理会社が売ると法人税等がかかり、そのお金を個人に移すときにもう一度課税されます。
• 事業承継税制(=後継者が受け取る自社株の贈与税・相続税の納税を猶予する制度)の利用を考えている場合は、資産管理会社をはさむと要件の判断が変わり、使えない場合もあるため、事前に確認します。

あわせて押さえたい2つの点
• 資産管理会社の株をオーナー自身が持つ場合(株式交換・株式移転で移した場合など)は、移した後の値上がり分や会社に残した資金は、資産管理会社の株を通じてオーナーの相続財産に含まれます。
• 資産管理会社に売ると、移した時点でオーナーの譲渡益に課税されます。資産管理会社が将来その株を売るときに法人税等の対象になるのは、買い取った価格(移した時の時価)からの値上がり分です。

移すなら、株価が上がる前に
資産管理会社に売る価格は、移す時の時価が基準です(→3章)。株価が上がった後に移すほど、オーナーの譲渡益への税金と、資産管理会社が用意する買取資金が大きくなります。特に次の3つの時点に注意します。
• ベンチャーキャピタル(VC)などからの資金調達の後:非上場株式の時価は、最近の適正な売買実例があればその価額が基準になります(所得税基本通達59-6・23〜35共-9(4)イ)。第三者割当増資の発行価格は売買実例そのものではありませんが、第三者との間で決まった株価として、時価の判断材料とされるおそれがあります。なお、VCが引き受けたのが優先株式などの種類株式(=権利の内容が異なる株式)なら、その価格は普通株式の時価とは区別して考えます(同(4)イ(注))。
• 上場の直前:取引所が上場を承認したことを明らかにした日から上場の前日までの株(公開途上にある株式)は、最近の適正な売買実例がなければ、公募・売出しの価格などを参考に時価を求めます(同(4)ロ)。
• M&Aで買い手と価格を合意した後:合意した価格が、時価の判断材料とされるおそれがあります。
上場を目指す会社では、上場前の株の移動は上場申請の書類に記載が求められると思われるため、主幹事証券会社や監査法人とも時期を相談しておきます。資金調達と株の持ち方の全体の設計は、資本政策の記事で解説しています。

2. 資産管理会社に自社株を移す方法は?売買・株式交換・自己株式の違い

資産管理会社に移すと決めたら、次は移し方です。移す方法と、似た取引である「事業会社自身に売る」場合を比べると、次のとおりです。

方法お金の動き売る人の税金株を持つ会社の株主向いている場面
売買(本記事)資産管理会社が代金を払う(借入れが必要なことが多い)譲渡益に20.315%の分離課税子どもなど、自由に決められるオーナーが現金を受け取りたい、将来の値上がり益を後継者側に置きたい
株式交換・株式移転代金は不要(資産管理会社の株と交換する)親会社の株以外の資産を受け取らないなどの要件を満たせば、譲渡益への課税は繰り延べられる(所得税法57条の4)オーナー本人(事業会社の株と交換で受け取る)事業会社の100%親会社をつくる(ホールディングス化)
事業会社自身に売る(自己株式の取得)事業会社が代金を払う代金のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当(総合課税)、残りは譲渡所得―(資産管理会社を使わない)少数株主の株を会社で引き取る

本記事は、このうち売買で移す場合を扱います。ホールディングス化で株価が下がる理由と、評価見直し案での扱いは、次の記事で解説しています。

参考記事:【ホールディングス化】持株会社の株価対策はもう使えない?評価見直し案で変わる4つのポイントと、いまやるべきこと

3. 資産管理会社に自社株を売る価格はいくら?|所得税基本通達59-6の時価

個人が法人に非上場株式を売るときの価格は、相続税評価額ではなく、所得税基本通達59-6の時価を目安に決めます。非上場株式には市場価格がないので価格は当事者が決めますが、所得税法59条の「時価の2分の1」を判定するときの「時価」は、この通達で求めた価額が基準になるためです。

所得税基本通達59-6は、非上場株式の時価を所得税基本通達23〜35共-9に準じて求めるとしています。つまり、最近の適正な売買実例があればその価額、上場が承認された後の株は公募・売出しの価格などを参考に、なければ類似会社の株価との比較などで求め、それらがない場合に、財産評価基本通達178〜189-7(相続税・贈与税で自社株を評価するルール)の例によって、次の4つを修正して求めます。

修正点内容
① 株主の判定の時点同族株主かどうかなどは、売る人の「譲渡直前の議決権の数」で判定する
② 中心的な同族株主売る人が譲渡直前に中心的な同族株主(本人と配偶者・親族などで議決権の25%以上を持つ同族株主)に当たる場合、会社は常に「小会社」として評価する
③ 土地・上場株式会社が持つ土地等と上場有価証券は、路線価等ではなく譲渡の時の時価で評価する
④ 法人税額等相当額純資産価額を計算するとき、含み益に対する法人税額等相当額(含み益のうち法人税等にあたる部分として、相続税評価では差し引く金額)を差し引かない

オーナーが自分の会社の株を資産管理会社に売る場合、オーナーは譲渡直前に中心的な同族株主に当たるのが通常です。そのため②により、会社の規模が大きくても「小会社」として評価することになり、純資産価額か、純資産価額と類似業種比準価額の併用(それぞれ50%)で評価します。さらに③と④で、土地の含み益や法人税額等相当額の分だけ高くなります。相続税評価額より高い価格になることが多く、相続税評価額で売ると「時価より安い売却」になりやすいのはこのためです。

買い手の資産管理会社の側でも、法人税で株の時価を考えるときに、同じような修正を加える考え方が示されています(法人税基本通達4-1-6・9-1-14)。実務では、株価算定書で時価を確認し、その価格で売買して根拠を残しておくのが基本です。

参考記事:非上場株式(取引相場のない株式)の評価方法|同族株主・会社規模の判定から評価方式が決まる4ステップ
参考記事:純資産価額方式とは?計算式・計算例と、決算書の純資産と評価額がずれる3つの理由

4. 時価より安く売るとどうなる?課税は3か所に及ぶ|所得税法59条・受贈益・みなし贈与

「税金を抑えたいので、できるだけ安く売りたい」という相談は少なくありません。しかし、時価より安く売ると、売った人だけでなく、買った資産管理会社とその株主にも課税が及ぶおそれがあります。

売った人|時価の2分の1未満なら「みなし譲渡」(所得税法59条)

個人が法人に対して、時価の2分の1に満たない価格で資産を譲渡した場合は、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得を計算します(みなし譲渡。所得税法59条1項2号・同法施行令169条)。実際に受け取った代金が少なくても、時価を受け取ったものとして課税されるので、受け取っていないお金に税金がかかることになります。

2分の1以上でも安心できない|同族会社の行為計算の否認

時価の2分の1以上で売れば59条は適用されませんが、資産管理会社のような同族会社に売る場合は、行為計算の否認(同族会社を使って税金を不当に減らす取引を、通常の取引に引き直して課税できる規定。所得税法157条)により、時価で計算し直される場合があることに留意するとされています(所得税基本通達59-3)。「2分の1以上なら安全」という線引きではないことに注意が必要です。

資産管理会社|時価との差額は受贈益(法人税法22条2項)

法人税では、資産を無償で譲り受けた場合だけでなく、時価より低い価格で譲り受けた場合も、時価との差額は実質的に贈与を受けたものとして、受贈益(益金)に算入されるとされています(法人税法22条2項の解釈)。こちらは「2分の1」の基準がなく、時価より安ければ差額全体が対象になります。資産管理会社は買取りの年に、代金を払ったうえに法人税の負担まで生じることになります。

資産管理会社の株主(家族)|みなし贈与(相続税法9条)

資産管理会社の株主が子どもなどの家族である場合、会社が時価より著しく低い価格で株を買うと、会社の財産が増えた分だけ、家族が持つ資産管理会社の株の価値が上がります。この値上がり分は、株を売った人から家族への贈与とみなされるおそれがあります(相続税法9条)。同族会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合を例示した相続税法基本通達9-2(4)の考え方です。この「著しく低い」は、所得税の「2分の1未満」とは別の基準で判断されます。

誰にどんな課税基準根拠
売った人時価で売ったものとみなして譲渡所得を計算時価の2分の1未満所得税法59条1項2号・同法施行令169条
売った人時価で計算し直される場合がある2分の1以上でも、同族会社への売却所得税法157条・所得税基本通達59-3
資産管理会社時価との差額が受贈益時価より低ければ差額全体法人税法22条2項
資産管理会社の株主株の値上がり分が売った人からの贈与とみなされるおそれ時価より著しく低い価格相続税法9条・相続税法基本通達9-2(4)

反対に、時価を大きく上回る価格で売ると、時価を超える部分は会社から売った人への利益になります。売った人の側では給与や一時所得として所得税がかかるおそれ、資産管理会社の側では役員給与や寄附金として損金にならない(寄附金は限度額を超える部分)おそれがあります。高すぎても低すぎても問題になるので、時価で売るのが最も手堅い方法です。

5. 計算例|時価3億円の自社株を資産管理会社に売る場合

次の前提で、売る価格によって税金がどう変わるかを比べます。

• 社長が事業会社の株式を100%(1,000株)保有。取得費は設立時の出資の1,000万円
• 所得税基本通達59-6で算定した時価は1株30万円(1,000株で3億円)
• 買い手の資産管理会社の株主は、社長の子ども2人

売る価格A 時価で売る
3億円
B 時価の53%
1億6,000万円
C 時価の40%
1億2,000万円
59条の適用なしなし(2分の1以上)あり(2分の1未満)
譲渡所得の収入金額3億円1億6,000万円3億円(時価とみなす)
譲渡益(取得費1,000万円を差し引く)2億9,000万円1億5,000万円2億9,000万円
売った人の税金(20.315%)5,891万3,500円3,047万2,500円
※行為計算の否認で時価計算されると5,891万3,500円
5,891万3,500円
税金を払った後の手取り2億4,108万6,500円1億2,952万7,500円6,108万6,500円
資産管理会社の受贈益なし1億4,000万円1億8,000万円
子どもへのみなし贈与なしおそれありおそれあり

売った人の税金の計算は次のとおりです(復興特別所得税を含む。2027年以後も合計の税率は同じ)。
• A・C:2億9,000万円×所得税15.315%=4,441万3,500円、2億9,000万円×住民税5%=1,450万円、合計5,891万3,500円
• B:1億5,000万円×15.315%=2,297万2,500円、1億5,000万円×5%=750万円、合計3,047万2,500円

Cは、代金を1億2,000万円しか受け取らないのに、税金は時価で売ったAと同じ5,891万3,500円です。手取りは約6,109万円まで減り、さらに資産管理会社には1億8,000万円の受贈益に法人税がかかり、子どもには贈与税の問題が残ります。Bは売った人の税金こそ約2,844万円少なくなりますが、同族会社への売却なので時価で計算し直される場合があり、資産管理会社の受贈益1億4,000万円と、子どもへのみなし贈与の問題は残ります。安く売っても、家族と会社を合わせた全体では得にならないことが多いのです。

なお、所得が極めて大きい人には、追加の所得税がかかる特例があります(租税特別措置法41条の19。2025年分から適用)。2027年分以後は基準が引き下げられ、所得が株式の譲渡益だけの場合でも、目安として約3.3億円を超えると追加の負担が生じます。この計算例(譲渡益2億9,000万円)は対象外ですが、売る株が多い場合は、売却の時期と金額もあわせて確認します。

参考記事:株式譲渡(会社売却・M&A)の税金はいくら?オーナーの手取りを計算例で比較|役員退職金・事業譲渡・2027年からのミニマムタックス

6. 買取資金はどう用意する?資産管理会社の借入れの返済と受取配当

時価で売ると、資産管理会社は大きな代金を用意する必要があります。実務では、金融機関からの借入れや、代金の分割払いで手当てすることが多くなります。

借入れの返済は、事業会社からの配当で

資産管理会社は、事業会社から受け取る配当で借入れを返済するのが一般的です。資産管理会社が受け取る配当は、持株割合などに応じて益金に算入しない扱いがあります(法人税法23条)。

資産管理会社の持株割合益金に算入しない割合配当時の源泉徴収
100%(完全子法人株式等)全額されない
3分の1超(関連法人株式等)全額(原則として配当の4%を差し引く。その年の支払利子の10%が上限)されない
5%超3分の1以下50%される
5%以下20%される

持株割合が3分の1を超えていれば、配当の大部分に法人税がかからず、源泉徴収もされないため、資産管理会社に資金がとどまる間は、個人で配当を受け取る(総合課税)より手元に残る資金が多くなります(法人税法23条、所得税法177条)。ただし、益金に算入しない割合の区分には保有期間の要件があります(100%は配当の計算期間を通じた完全支配関係、3分の1超は原則として基準日の6か月前などから引き続き保有していること。法人税法施行令22条・22条の2)。このため、買い取った直後の配当は50%の区分になる場合があります。源泉徴収されない扱いは、基準日に3分の1超を持っていれば適用されます。配当の時期と買取りの時期は、あわせて計画しておきます。

代金の分割払いと相続

代金を分割で受け取る場合でも、譲渡所得は原則として株を引き渡した年に全額が課税されます(所得税基本通達36-12)。初年度の納税資金を確保しておく必要があります。また、まだ受け取っていない代金は売った人の資産管理会社に対する債権(貸付金や未収金)として残ります。この債権は相続税の対象になるため、株は移しても、相続財産は債権の形で残る点に注意が必要です。また、受け取った現金も、使わなければ相続財産になります。

資産管理会社の株価の評価

資産管理会社の財産のほとんどが事業会社の株になると、資産管理会社は「株式等保有特定会社」(相続税評価額で計算した総資産のうち、株式等の割合が50%以上の会社)に当たり、相続税・贈与税での評価は、原則として純資産価額方式などによることになります(財産評価基本通達189(2)・189-3)。資産管理会社の株を後継者に渡す計画がある場合は、この評価も事前に試算しておきます。

参考記事:【ホールディングス化】持株会社の株価対策はもう使えない?評価見直し案で変わる4つのポイントと、いまやるべきこと

7. 資産管理会社に自社株を売る前のチェックリスト

なお、同じ自社株の売却でも、事業会社(株を発行した会社)自身に売ると、代金のうち資本金等の額のうちその株に対応する金額を超える部分が「みなし配当」(配当として課税される部分)として総合課税されます(所得税法25条1項5号。相続した株には特例があります。租税特別措置法9条の7)。資産管理会社に売る場合は、代金の全額が株式の譲渡所得になり、20.315%の分離課税です(租税特別措置法37条の10)。どちらに売るかで税金の種類が変わるため、比較してから決めます。実行前には、次の9点を確認しておきます。

確認すること理由
将来の出口売って個人で使うか、持ち続けて再投資・承継するかで、個人と資産管理会社のどちらで持つかが決まる(1章)
移す時期資金調達・上場承認・M&Aの合意の後は、時価が高くなるおそれがある(1章)
所得税基本通達59-6の時価売る価格の基準になる。オーナーが売るなら「小会社」として評価するため、相続税評価額より高くなりやすい
売る価格と時価の差2分の1未満の59条、同族会社の否認、資産管理会社の受贈益、家族へのみなし贈与の4つの論点が生じる
資産管理会社の株主誰に将来の値上がり益を持たせるか、みなし贈与が生じたときに誰の問題になるかが決まる
資金計画借入れの金額と、返済に充てる配当の額・時期・益金に算入しない割合の区分
売った人の納税資金譲渡所得の確定申告と納税は、売った年の翌年3月15日まで
株の譲渡の承認事業会社の株に譲渡制限がある場合、取締役会や株主総会の承認が必要になると思われる(会社法136条・139条)
ほかの方法との比較株式交換・株式移転、事業会社への売却(自己株式)、後継者個人への売却と比べ、家族と会社の全体で判断する

参考記事:非上場株式の評価見直しはどうなる?国税庁案に自民党の日本成長戦略本部が「容認できない」|自社株評価の改正・残余利益方式の今後

8. まとめ|自社株は出口から逆算して持ち方を決め、移すなら株価が上がる前に「時価」で

自社株を資産管理会社に移す計画、その売る価格で、売った人・会社・家族の三者の税金まで確かめていますか?買い手が法人である以上、物差しは相続税評価額ではなく所得税・法人税の時価です。安く売っても、売った人の税金が減らないうえに、会社と家族に課税が広がることがあります。

次のどれかに当てはまるなら、一度確認しておくべきです。
• M&Aや上場、資金調達の予定があるが、自社株を個人と資産管理会社のどちらで持つか決めていない
• 自社株を、相続税評価額や額面で資産管理会社に売ろうとしている
• 資産管理会社の株主が子どもなど家族で、売る価格の決め方に迷っている
• 代金を借入れで払う予定で、返済の計画が固まっていない
• 売買と株式交換・株式移転のどちらがよいか決めかねている

資産管理会社への株式の移転・株価算定でお悩みなら、プラスト税理士法人へご相談ください

こんな経営者様はご相談ください。
• 資金調達やM&Aの予定に合わせて、個人で持つ場合と資産管理会社で持つ場合の税金を比べたい
• 所得税基本通達59-6の時価を算定し、売る価格の根拠を残したい
• 売った人・資産管理会社・家族の税金を、価格の案ごとに比べたい
• 借入れと配当による返済まで含めて、資産管理会社の計画を立てたい

プラスト税理士法人は、株価算定から、株式の移転・集約のスキーム検討、資産管理会社の税務顧問までを一貫して支援しています。初回のご相談は無料です。

よくある質問

●自社株は個人と資産管理会社のどちらで持つのがよいですか?
将来その株をどうするかで決まります。売ったお金を個人で使う予定なら、譲渡益が20.315%の分離課税で済む個人で持つ方が、税負担は軽くなりやすいです。資産管理会社が売ると法人税等がかかり、そのお金を個人に移すときにもう一度課税されるためです。売った後も再投資する、事業や財産を後継者に引き継ぐ予定なら、配当や売却代金を会社に残せる資産管理会社で持つ方法が向いています。

●IPO(上場)の前に、自社株を資産管理会社に移すべきですか?
上場後に株を売って個人で使う予定なら個人のまま、持ち続けて再投資・承継に回すなら、株価が上がる前に移すのが基本です。M&Aで売る予定の場合も同じ考え方です。資産管理会社に売る価格は移す時の時価が基準で、最近の適正な売買実例があればその価額が基準になります(所得税基本通達59-6・23〜35共-9(4)イ)。VCなどからの資金調達の後は、その発行価格が時価の判断材料とされるおそれがあり、取引所が上場を承認した後は、公募・売出しの価格などを参考に時価を求めます(同(4)ロ)。

●売買と株式交換・株式移転は、どちらがよいですか?
売買はオーナーが現金を受け取れる一方、譲渡益への課税と、資産管理会社の資金の手当てが必要です。株式交換・株式移転は代金が不要で、一定の要件を満たせば譲渡益への課税が繰り延べられます(所得税法57条の4)が、オーナーは現金を受け取れません。目的と資金計画、株価への影響を合わせて比べて決めます。

●資産管理会社に自社株を相続税評価額で売ってもよいですか?
個人が法人に売る場合の時価は、所得税基本通達59-6により、財産評価基本通達の方法に4つの修正を加えて求めます。オーナーが売る場合は会社を「小会社」として評価し、土地等は時価で評価し、法人税額等相当額を差し引かないため、相続税評価額より高くなることが多く、相続税評価額で売ると時価より安い売却になるおそれがあります。

●所得税法59条のみなし譲渡とは?「著しく低い価額」はいくらですか?
個人が法人に資産を贈与・遺贈したときや、限定承認による相続などで資産が移転したとき(1号)、法人に著しく低い価額で譲渡したとき(2号)に、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得に課税する規定です(所得税法59条1項)。「著しく低い価額」は、時価の2分の1に満たない金額です(所得税法施行令169条)。資産管理会社に自社株を時価の2分の1未満で売ると2号の対象になり、非上場株式の時価は所得税基本通達59-6により求めます。

●時価の2分の1以上で売れば、税務上の問題はありませんか?
売った人に59条は適用されませんが、資産管理会社のような同族会社に売る場合は、行為計算の否認(所得税法157条)により時価で計算し直される場合があります(所得税基本通達59-3)。また、資産管理会社には時価との差額の受贈益(法人税法22条2項)、資産管理会社の株主には、時価より著しく低い価格での売却によるみなし贈与(相続税法9条)の問題が生じるおそれがあります。

●資産管理会社に自社株を売ったときの税金は?
売却代金から取得費と売却の費用を差し引いた譲渡益に、所得税15.315%(復興特別所得税を含む)と住民税5%、合計20.315%がかかる分離課税です(租税特別措置法37条の10・地方税法附則35条の2。2027年以後も合計は同じ)。売った年の翌年3月15日までに確定申告をします。事業会社自身に売る場合と違い、みなし配当にはなりません。

●資産管理会社が受け取る配当に税金はかかりますか?
持株割合などに応じて、益金に算入しない扱いがあります(法人税法23条)。100%保有なら全額、3分の1超なら負債の利子の一部を差し引いた残りの全額が益金に算入されず、配当時の源泉徴収もされません(所得税法177条)。益金に算入しない割合の区分には保有期間の要件があるため、買い取った直後の配当は50%の区分になる場合があります。

【主な根拠資料】所得税法25条1項5号・57条の4・59条1項・89条・92条・157条・177条、同法施行令169条・301条/所得税基本通達36-12(国税庁)/所得税基本通達59-3・59-6(国税庁)/所得税基本通達23〜35共-9(国税庁)/租税特別措置法9条の7・37条の10・37条の11・41条の19/地方税法附則35条の2・35条の2の2・72条の24の7(事業税の税率)/特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律/東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法/我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法/財務省「令和8年度 税制改正の解説」/法人税法22条2項・23条・66条、同法施行令19条・22条・22条の2/法人税基本通達4-1-6・9-1-14(国税庁)/相続税法9条、相続税法基本通達9-2(国税庁)/財務省「法人税の税率」(法人実効税率)/財産評価基本通達178〜189-7(185・186-2 純資産価額(国税庁)・189 特定の評価会社の株式(国税庁))/会社法136条・139条
※計算例の金額は説明のための仮の数字です。
※本記事は2026年10月30日時点の法令・通達に基づく一般的な解説です。
※ 最終判断は担当税理士が行ってください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断は専門家にご相談ください。

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